Made in Japan スペシャルインタビュー

W. David MarxTakayuki Ishii
  • 文筆家
    デーヴィッド・マークス氏が語る
    「MADE IN JAPAN™ COLLECTION」の魅力

    ハーバード大学東洋学部で日本のファッションについて研究し、近年、『AMETORA』という本を上梓して日本のファッションカルチャーを紐解いたファッションジャーナリストのデーヴィッド・マークス氏。彼のデニム遍歴と独自の視点で捉えた日本のものづくりについてお話を聞きました。

    「意識してジーンズを履くようになったのは大学生の頃からです。モッズカルチャーに憧れていたので、リーバイス®の501®を履いていました。初めて日本を訪ねてからはストリートファッションにハマって、ジーンズに裏原ブランドのTシャツとスニーカーを合わせるのが定番でした。
    『AMETORA』を執筆していた時には、セルビッジのジーンズが欲しくなり、80年代のアイスウォッシュの501®を手に入れたんです。私にとって、リーバイス®はジーンズのゴールドスタンダード。歳を重ねてもそれは変わりません」

    「僕は日本のストリートファッションのように無国籍なカルチャーにとても興味があります。ジーンズもアメリカがオリジンとされていますが、デニム生地自体はフランス生まれだったり、日本で独自の発展を遂げるなど、もはや無国籍なアイテムになっています。日本独特のファッション文化を掘り下げた本、『AMETORA』を執筆するにあたり、日本のジーンズの歴史も入念にリサーチしました。

    日本では戦後、白洲次郎のような上流階級の人物がジーンズをはいていた一方、ジーンズの主な入手先が闇市だったように、ジーンズは複雑な位置付けにありました。しかし、70年代に入り、カイハラがデニム生地の製造をはじめ、国産ジーンズブランドが立ち上がったことで、日本でもジーンズが一般的なものになりました。その後、ヴィンテージジーンズブームやレプリカジーンズブームが起きるなど、ジーンズは日本で独特の進化を遂げました。

    カイハラのデニム生地工場にも視察に行きました。そこで感じたのは、デニムがとてもオーセンティックに作られているということ。ロープダイイングやシャトル織機による織布など、最もオリジナルに近い製法で作られているんです。カイハラのルーツである藍染の方が技術的なレベルは高かったように思いますが、その技術を応用することで、どこよりも伝統的な方法でデニムを作り、いまやデニムさえもカイハラの伝統の一部になっているのはとても面白い現象だと思います。

    日本のものづくりの素晴らしいところは、ブランドだけでなく、本来、裏方である製造現場がリスペクトされている点だと思います。どのメーカーが素材を作っているかでプロダクトが評価されるという文化がある。それも、トレーサビリティがしっかり確立されているからです。“カイハラデニム”のように生地がブランド化されている例は世界でも稀でしょう」

    「『MADE IN JAPAN™ COLLECTION』はブルーのセルビッジや青いレザーパッチなどスペシャルなディテールがとても魅力的です。ものに詳しくなっていくとディテールに興味が出てくる。そして、ディテールが多様になるほどプロダクトが面白くなるし、それが文化になっていく。実際、ジーンズはディテールにこだわることで自分の個性を表現できるレアな洋服になっています。『511™ SLIM』を履いてみましたが、カラーがとてもいいですね。僕はダークデニムから育てていくのが好きなので、どんな色落ちを見せてくれるのか楽しみです。」

  • タカ・イシイギャラリー代表
    石井孝之氏が語る「MADE IN JAPAN™ COLLECTION」の魅力

    1994年の開廊以来、日本の著名な写真家や画家の作品から国内外の気鋭のアーティストの作品まで幅広く手がけ、世界から高く評価されている「タカ・イシイギャラリー」の代表を務める石井孝之氏。70年代にアメリカ西海岸でデニムカルチャーに触れた彼に、“デニムの美”について問いました。

    「私は1982年にファッションを学ぶためにロサンゼルスに渡りました。当時はDCブランド全盛期で私もデザイナーを目指していたんです。しかし、現地でファインアートの世界に魅了されたことで、現在の道に進みました。
    アメリカに対する憧れは子供の頃からありました。サーフィンやスケートボードといった西海岸のカルチャーに親しんでいましたし、歴史が短いのに大国になったアメリカという国に対してとても興味があったんです。
    渡米した当時はまだ70年代の空気感が色濃く残っていて、憧れていたアメリカがまさにそのままありました。ロサンゼルスで出会ったアーティストたちはみんなジーンズにTシャツのようなラフな服装をしていました。私もジーンズを穿いていることが多かったですね。古着屋が立ち並ぶメルローズアベニューにはよく通ってヴィンテージデニムを買っていました。当時はまだヴィンテージが破格の値段で手に入ったんです。デッドストックを探したり、50年代製のボロボロのリーバイス®のファーストを見つけて愛用していたのを覚えています」

    「デニムはアートになり得ると思います。実際、スターリング・ルビーというアーティストはデニム生地をコラージュしたり、ブリーチしたりして作品を生み出しています。私がデニムに対して感じるのは、“抜く美”です。デニムは機械で正確に作ればいいというものではなく、人間の手が関わることで生まれる微妙なブレが魅力になっているのだと思います。『MADE IN JAPAN™ COLLECTION』も緻密に作られていますが、あえて“抜く”ことで、ラフな味わいを出していますね。完璧に作れるのに、あえて“抜いて”、ラフに仕上げて味わいを出す。機械を微調整してそのニュアンスを表現できる日本の技術者は素晴らしいと思います」

    「『MADE IN JAPAN™ COLLECTION』の『502™』を穿いてみましたが、とても新鮮な感覚です。普段はタイトで色の濃いジーンズを穿くことが多いのですが、窓ガラスにふと映った自分の立ち姿を見た時に、ルーズなシルエットと明るい色目が意外にしっくりきました。色落ち加工も適度で、カジュアルに見え過ぎないところも気に入っています。また、少し穿いただけで体に馴染んでくるソフトなデニム生地からも日本のものづくりの繊細さが伝わってきます。昔ながらのベーシックな5ポケットのデザインもいい。

    アートの世界は新規性も求める面もありますが、ずっと変わらず続けていくことにも価値を見出します。河原温という日本人アーティストがいますが、彼は『日付絵画』というシリーズで、キャンバスに制作当日の日付だけを描くという作品を亡くなるまで何十年も作り続けました。様々な時代のムーブメントに影響されることなく、同じものを変わらず作り続けるのはすごいことなんです。
    ジーンズは170年近くも同じ形を継承し続け、しかも世界で広く受け入れられています。また、ワークウェアでもあり、フォーマルなシーンにも通用する、さらに、身につけることもできて、アートピースにもなり得るという振り幅の広さを持っている。そんな普遍的で多様性に富んだジーンズの特別な存在感に私はずっと惹きつけられているのだと思います」