Levi’s®Made in Japanが生まれる、特別な場所を訪ねて。

Levi’s® Made in Japan
最高のクラフツマンシップが
集結。

生地作りから縫製、加工に至る全工程を日本で行っており、今回は生産に関わる全工場へ赴き、Levi's®Made in Japan(以下〈MIJ〉)コレクションができるまでを徹底取材。アメリカ発祥の〈リーバイス®〉と、世界一と名高い日本の職人技術の協奏から生まれる〈MIJ〉コレクションの魅力に迫った。

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原綿から生地作り。

原綿から生地作り。

コレクションが誇る
プレミアム生地ができるまで。

良質な日本製ファブリックを使用しているMade in Japanコレクションの生地は、世界中のデニムファクトリーから信頼の厚いカイハラデニムで製造していた。日本のトップシェアを誇る同社は、広島県福山駅から車で1時間ほどの山間部に複数の工場を構える。原綿からデニム生地製造まで一貫生産が可能という、世界でも類を見ないデニム生地製造会社だ。

工場内に一歩足を踏み入れると、まず目に入ってきたのがうずたかく積まれた巨大な白い塊。デニム生地作りの礎となる、糸を作るための原綿だ。これをほぐしつつ、デニム生地の種類に応じてブレンドし、繊維の向きを整えて糸を作る紡績工程に回す。ここには柔らかい長繊維の糸に適した「リング精紡」と、やや硬い短繊維の糸に向いている「オープンエンド精紡」の2種類の方法がある。

糸作りへの熱い思い

紡績課の岡賢也さんは、「糸はデニム生地作りの基本。糸の品質が悪いと、すべての工程が台なしになってしまいますし、特にMade in Japanコレクションのデニム生地は繊細な表情が魅力ですから。」と、糸作りへの思いを熱く語る。

デニムに味が出るひと手間

Levi‘s®Made in Japanコレクションのデニム生地は通常の工程に加え、特別なひと手間を加えている。

紡績された糸は、約600本をロープ状に束ねられ、次の染色工程でムラなく染め上げるために均一に巻き取られる。そして独自に開発したロープ染色機を用いての染色作業へ。真っ白な原糸はインディゴ染料の液槽を通り、ローラーで絞られる。最初に染料に触れると鮮やかなグリーンになるが、空気に触れることで酸化し、徐々に藍色へと変色するのだ。
ただLevi‘s®Made in Japanコレクションのデニム生地の場合は、少し勝手が違うという。

「詳細は控えますが、綿の段階で、特別なひと手間を加えています。このため色落ちをするとデニムに味が出ているように見えるのが、Made in Japanコレクションのデニム生地ならではの特徴です。」

と染色課の奥川和典さんは語る。

素材や製法にこだわって作られた糸。〈MIJ〉コレクションの最高品質のデニムはここから生まれる。「KAIHARA BLUE」と呼ばれるインディゴの色味。芸術的な美しさは〈MIJ〉コレクションでも健在。

  • 高品質を誇る原綿はブラジルやアメリカなどから輸入しロットごとに保管。1俵の重さが約220㎏で、250本ものデニムが作れる。

  • ブレンドされた綿を小さな穴に通し、繊維の方向を整え、太いロープ状のもの(スライバー)を作る。この時に不要物も除去する。

  • 原綿から糸へと変わる紡績工程。写真は柔らかい長繊維の糸に適した「リング精紡」で、〈MIJ〉コレクションの糸はここで製造。

  • 染色漕の表面には赤紫色の泡が浮かんでいる。実はこれがカバーのような役割を果たし、内部の良質な染色液の酸化を防いでいるのだ。

  • ロープ状の束でインディゴに染められた糸は、織る際に糸切れを起こさないよう、表面を糊付けし、その後織布工程へと送られるのだ。

世界最高の
デニム生地を作るため、
独自のこだわりと探究心
織布工程

カイハラ並びに、Made in Japanコレクションのデニム生地作りに対する強いこだわりや探究心は、こんな細かな工程からも垣間見えるのだ。
その後、糸を織り合わせて生地をつくる織布工程へ。
ここにも、世界最高のデニム生地を作るための独自のこだわりが詰まっている。

「旧式のシャトル織機が現役で稼働しており、独自でカスタマイズしながら大切に使い続けています。最新の織機を使うこともありますが、ヴィンテージ風の質感が魅力となっているMade in Japanコレクションならではの凹凸や、うねりのある味わい深い表情を出すために、あえて旧式の織機を使っています」と加工課の上原正嗣さん。

1.〈MIJ〉コレクションのデニムは、百数十台あるという旧式のシャトル織機で織り上げる。工場内は稼働音が大きく耳栓は必須。
2.「整理加工」では毛羽焼きのほか、デニム地にハリを出すための糊付けやよじれを防ぐための斜行防止などの仕上げを行う。
3.〈MIJ〉コレクションのキモである、最高品質のデニム生地がほぼ完成。色ムラやばらつきなど、品質基準を最終チェックする。

履いた瞬間からの体への馴染み
穿き込むほどに美しさが増す

織り上がったデニム生地は整理加工という工程に送られ、毛羽焼きを施すなど最終調整を行う。毛羽を焼くことできれいな風合いに仕上がるのだが、Made in Japanコレクションの場合、デニムの生地そのものの自然な風合いを生み出すために、表面部分はあえてあまり焼かないのだという。
こういった繊細なもの作りによって、初めて穿いた瞬間から体に馴染み、穿き込むほどに美しさが増すMade in Japanコレクションが誕生しているのだ。

2

縫製と組み立て。

縫製と組み立て。

生地から衣服へ。
コレクションの
原型が立ち上がる。

仕上がった生地は、大分県の豊後大野市にあるサルティ大野工場へ運ばれる。その距離およそ450㎞。
自然豊かな山間に立地する工場を訪ねると、多くの職人が作業をしていた。工程数はおよそ60。業務は細かく分業されており、作業場や機械の位置も計算して配置している。
ここでは主にデニム生地をパーツごとに裁断&縫製し、組み立てまでを行っている。

カイハラデニムから届いたデニム生地は、まず「延反」という工程に入る。これは読んで字のごとく、ロール状で届いた生地を裁断台の上で延ばすのだ。そこから自動裁断機や職人の手により、専用の型紙に合わせて生地を裁断、機械を使って縫製し、組み立てていく。

カイハラデニムから届いた、1ロールあたり約50~60m分はある裁断済みの生地を、それぞれブランドやモデルごとに保管している。

〈リーバイス®〉本社から送られてきたデザインの型紙。例えばパンツであれば、ヒップポケットなど全パーツのデータが記されている。

MIJならではの特色
繊細な調整や刷り

〈MIJ〉コレクションでは、アーキュエットを仕上げる際は大きさや形、付ける位置などをミリ単位で調整する。またスレキ(ポケット袋)には、昔の品質保証書を表すギャランティチケットのグラフィックと「日本製」の印字を載せる。あえてかすれて見えるようにするなど繊細な刷りは、〈MIJ〉ならではの特色だ。

  • 〈MIJ〉コレクションに使うスレキのプリントにはシルクスクリーンを用いる。1日に約1,000~1,400枚ほど仕上げるそう。

  • アーキュエットの型やポケットをつける位置などは、リーバイス®の基準に合わせてミリ単位で調整。

  • インディゴタブは、「LEVI’S®」の刺繡ロゴと「リーバイス®」表記の二面仕様。カタカナが入るのも〈MIJ〉ならでは。

機械ではできない
繊細な手仕事

数ある作業の中でも重要なのが「ミミ(=セルビッジ)揃え」と呼ばれる手作業。

「ミミをきちんと揃えつつ、デニム生地を重ねて裁断することは機械では不可能なので、職人さんの高い技術力を必要とします。ミミのシンボルである縦線が美しく出るように切ることは非常に難しい。特に〈MIJ〉コレクションでは通常の赤ではなく、白ミミを採用し注目を集めているので、より慎重に行います。」と、大野工場の阿南公浩さん。

ミミを揃えて裁断する工程。コインポケットなどミミを使うパーツはすべてこの作業を行う。

「白ミミ」は〈MIJ〉コレクションの特徴。

熟練の職人たちによる
技術

ヒップポケットやコインリベット、ベルトループ、バックヨークなど、一本のデニムパンツを組み立てるのに必要なパーツが20種類以上あり、しかもサイズやモデルごとに大きさが微妙に異なるので、裁断したパーツは膨大な量になる。

問われるのが職人たちの技術力。
これについて阿南さんは胸を張る。

「例えば工程の中には、股部分の左右の身頃を縫い合わせる“尻巻き”や脚の内側部分を縫いあげる“内股合わせ縫い”、外側を縫いあげる“脇合わせ縫い”など、難易度が高く、なおかつスピードと正確性が求められる作業があります。
とりわけ“尻巻き”は、デニムパンツ作りの縫製において最も難しい。具体的には2つのパーツの縫いしろを指で丸めて、巻き込むように合わせながらミシン台に乗せつつ、一気に縫い合わせるという作業。
これだけでも大変なのに〈MIJ〉コレクションの場合はイレギュラーで、縫製箇所を正確に合わせるのではなく、少しだけズラして行わなければいけないんです。この感覚こそ、長年の経験の賜物。機械ではできない繊細な手仕事を、熟練の職人さんが手がけることで最高品質のデニム作りができていると自負しています。」

ヒップポケットの縫い付けは手作業。またセルビッジといえば「赤ミミ」が定石だが〈MIJ〉はモダンな「白ミミ」という特別仕様。

  • ほぼ完成。その後はボタンやリベットなどパーツをつけて検品。日の丸モチーフの内部タグは〈MIJ〉コレクションの特徴。

  • 「内股合わせ縫い」は、工程の中でも特に長い距離を縫わなければならない難所の一つ。内股から裾まで一気に縫い上げるのがコツ。

卓越した職人技術で
世界最高峰のデニムパンツに

最高品質のデニム生地を用い、卓越した職人技術によって誕生した世界最高峰のデニムパンツ。〈MIJ〉コレクションはこの後、優れた加工技術により、芸術的なデザインに変貌を遂げるべく、次の工場で最終工程に入る。

3

加工から仕上げへ。

加工から仕上げへ。

繊細な加工で〈MIJ〉に
魂が吹き込まれ、表情が豊かに。

最終工程となる工場、SAAB(サーブ)は、神奈川県平塚市の工場地帯に拠点を持つ。大型洗濯機やレーザー加工機など、最新鋭の機器とハンドメイドでの作業を専門とする縫製と加工の会社。
特筆すべきは職人の技術力の高さ。手作業の生地の加工や研磨などを行うことで、どんな機械でも創出できない、手仕事ならではの絶妙な色落ちやほつれによって、繊細な表情を生み出すのだ。機械を使ったレーザー加工では、光熱のレーザーでデニムの表面を焼き、ヴィンテージデザインのベースを作る。その後、シェービングと呼ばれる工程で、ロール状のサンディングペーパーを用い職人によってデニムの表面部分を削るのだ。

  • 洗い加工ではアタリ(デニムがこすれたようなあしらいにすること)を出すべく、洗濯機の中に、100㎏の桜島産の火山岩を投入する。

  • レーザー加工と同様、より強めのアタリを要望されるデニムに関しては、石と一緒に促進剤を入れるなどして効果を高めるという。

  • 〈リーバイス®〉本社より決められた指示に従いレーザーで所定のデザインを照射。デニムの表面部分を削って濃淡を作ることでヴィンテージの大まかな表情を作っていく。照射する時間や温度などはコンピューターで設定しているのですべて同じ表情に仕上がる。

出したい表情によって
道具を使い分け、
細部に徹底的に
こだわり丁寧に仕上げる

「ヴィンテージ加工といっても手法は色々あります。〈MIJ〉コレクションで膝周りに適度な光沢を作りたいときなどはブラシを用いるなど、出したい表情によって道具を小まめに使いわけて仕上げています。またよりハードなダメージ加工を作るなら、手作業でブリーチをかける“塩素拭き”やドリルによる“穴開け”、特別な染料を用いる“エイジド染め”など、特殊な工程もあります。とにかく細部に徹底的にこだわり、ヴィンテージの風合いを、リアルかつ丁寧に仕上げるということが職人としての仕事です」

日本人の職人気質が
詰まったアイテム

今シーズンの〈MIJ〉コレクションの限定モデルである、矢印をモチーフにしたトラッカージャケットと同デザインの501®モデルや、ウィメンズのBARRELジーンズは、〈MIJ〉コレクションの中でも特に注目されているが、同アイテムには、日本人ならではのクリエイティブと職人気質が詰まっている。

生地作りを担当した、サンプル班の原野泉さんが振り返る。

「最初に〈リーバイス®〉本社から、古着のサンプルが送られて来ました。苦労したのが製作順です。数が膨大すぎて何枚手がけたかわかりませんが、一枚一枚、矢印の生地を手で縫い合わせていきました。ただ生地が3色あったので、どのパーツをどういう順番で、どこに縫い合わせるかが大変でした。最初を間違えてしまうとすべてが台なしになってしまいますから。製作途中で間違いに気づき、糸をほどかなきゃいけなかったことは何度もありました。
これまでもデニムのリメイクウェアは作ったことがありますが、今回の〈MIJ〉コレクションに関しては生地作りから始めたので、自分のキャリアの中では最も手の込んだ作品になりました」

SAABでは、梱包した商品に各人が工場で使用していたハサミを同包してしまう事故を防ぐべく、業務終了後に所定の位置に返すことになっている。ハサミ置き場には職人それぞれが廃材のレザーパッチを用い、思い思いに作った特製のハサミケースが並んでいる。

〈リーバイス®〉ブルーデニムを
発明して150年。
ここから新たな歴史の
一ページが開かれる。

日本製デニム、ひいては〈MIJ〉コレクションの製造に関わる人々のデニムへのこだわりと矜持、そして愛情の深さ。
〈MIJ〉コレクションは、丹精込めて作られた日本製プレミアムデニム生地を使い、独自で編み出した機械や工程、職人たちの優れた技術力を結集して生まれるのだ。

BRUTUS 2023年9月15日発売号掲載
photo/Kazuharu Igarashi
text/Kei Osawa

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